うつ編・お薬ガイド | ベストケンコー

 

正常のゆううつと、うつ病のウツとはどう違う  もちろんうつ病の中心はゆううつ気分だが、それ以外にもいろいろの症状があるし、ものの考え方にも特有のものがある。これらは当然、うつ病を正確に診断することとも大いに関係してくる。ただ、誰しも感じる「正常心理としてのゆううつ」を基盤としているだけに、「ゆううつなんて誰でも感じる人間的なものじゃないか?  ゆううつを感じない人がいたらその方が変じゃないか」「誰しも陥るウツと、うつ病はどう違うんだ?」という質問をよく受ける。まず、あなたはどんな時にゆううつになるかを考えてみてほしい。仕事がうまく運ばない時、人間関係の悩み、いじめ、失恋、好きな球団が負けた時……などなど、別におおげさな状況でなくても、日常わりとあるはず。その時の気分?  もちろん気分が滅入っている、大抵のことが面白くない、したがって何かをしようという気になれない、ファイトがない。まあこれがウツである。うつ病のウツも基本的にはこれと同じ構造をもっている。  しかし実のところ、うつ病のウツ気分と普通の人が日常的に感じるウツ気分とでは、三つの点で違いがある。  第一に、「うつ病の場合、必ずしもひどいストレスに出会ってはいないのに、ひどくゆううつになる」ということである。片井さんの場合も、「あんなにひどい目にあうと、誰だってウツにもなるわなー」と周囲が皆思うようなストレスはなかった。それでも片井さんはひどくゆううつになっている。これがうつ病の特徴である。すでにお気づきのように、極端なストレス(たとえば、株で一億円損したとか、火事で家が焼けた、愛する人が死んだ、などの一大悲劇)を受けた後にゆううつになっている場合、それがうつ病かどうかは、そのストレスの影響が完全に去るまで診断できにくい。このような場合には、次に述べる「ゆううつ症状の質的な異常」のみで判定するか、あるいは診断自体をしばらく棚上げにせざるをえないのである。うつ病のウツと日常的ゆううつの第二の違いは、「考え方が正常者とは質的に違う」ことである。たとえば、普通のサラリーマンがうつ病になって、「自分は世界平和の邪魔をしているので、自殺する」と言っているような場合、特に「そんなバカなことはないだろう」といくら説得しても納得しなければ、それは「妄想」と言いたくなるほど、質的に異常な考えである。片井さんの場合、大きな仕事上の失敗はないのに、「これまでミスばかりで、皆に迷惑をかけてきた」「若い人のポストをふさぐだけで申しわけない」「ローンを返すあてもなく、死ぬしかない」と、事実無根な思いに駆られ、家族の慰めにも耳を貸そうとしない。これはやはり病的と言わざるを第三の違いは「ゆううつの持続が極端に長い」ということである。「自分はだめだ」という観念があったとしても、二 ~三日すると「まあ、考えてみると、そこまでだめじゃない」と思うようになれば、それはうつ病ではない。現在のところ、二週間以上、極端にゆううつが続いた場合をうつ病と考えるというのが、国際的なコンセンサスとなっている。片井さんの場合、すでに半年近くひどいウツが続いており、明らかにうつ病に該当すると言えるであろう。以上、第二、第三のポイントを一言でまとめれば、うつ病のウツ気分は「質、量ともに重い」、つまり「強さにおいてはるかに強く、持続においてはるかに長く、苦しさにおいてはるかに苦しく、生活の障害される程度においてはるかに深いということになるであろう。

—『新版 うつ病をなおす (講談社現代新書)』野村総一郎著

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